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モツ鍋フィーバーより誕生。

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その透明な嵐に混じらず、見つけ出すんだ――『ハルコナ』感想

お久しぶりです。前回が春で、今回が夏ですね。月日が過ぎるのは早いものです。

さて、秋田先生の久々の新作・『ハルコナ』をゲットしました!

ハルコナ

「圧倒的純愛小説」?というより、私の大好きな『ユリ熊嵐』と同じく、「その透明な嵐に混じらず、見つけ出すんだ」という物語だと思いました。同調圧力の悪意が吹き荒れる、そんな現代に生き苦しさを感じる人へ向けての。

「心が感じた大切な『スキ』を、手放さないで」。

ツイッターで秋田先生が5年前、震災の年に「Twitterの“全員が我こそはといいことを言おうとしている空気”は合コンそっくりでモヤモヤする」とつぶやいていたのですが。
まさか本作が、“花粉”をモチーフにして、そのような「目に見えない空気中に漂う、怒りや悪意の同調圧力とどう向き合っていくのか」を描いた物語だと思いませんでした。

怒りはアレルギーと同じ。一度吸い込んで体内に取り込んでしまったら、発症してしまう。“怒れる群衆”はすぐに出来上がってしまう。「透明な嵐は、きれいで優しいものから壊していく」ように。

物語はとてもシリアスで、渇いたユーモアがあって、淋しさがあって、息苦しさがあって。不特定多数の“目に見えない空気=実体がないような意見”があっという間に漂うSNSが発達した、そんな現代を映す鏡のような鋭さがあります。

その中で、主人公の遠夜はただの17歳の男子高校生でしかなくて。願いは、「幼なじみのハルコと、これからも一緒にいたい」というささやかなもので。彼女の対抗花粉体質を取り除くこともできないし、物理攻撃を完璧に防げる腕力もない。

でも、「怒ることで大事なことを忘れさせられそうになる」のを防ぐことはできた。一番好きなシーンは、遠夜が環境保護団体のメンバーに対して、その“大事なこと”について告げるところ。
ハルコが攻撃されたことで、彼女の誕生日祝いにプレゼントを買いに行く予定が台無しになり、そのバタバタで彼女の誕生日も忘れてしまった。

>「誕生日なんて……」
>「どうでもいいっていうんですか?」
>「いや」
>「どうでもいいって、どうしてあなたが決めたんですか。そんなこと勝手に決められると思ってるような人が、なにが人のためだって思うんですか」

この、「自分の大事なものは何か」をきちんと自覚できるというシーンにぐっときました。

そして、いつも防護スーツ越しで、触れることも目を合わせることも容易ではないハルコ。彼女を完璧に理解できていないのかもしれないけれど、それでも遠夜は彼女と「ちゃんと話し合うこと」で、一緒に空気と戦う覚悟を決めた。
その代償として「ひとつの大きな世界」から排除されても、自分の願いやハルコの笑顔を守り抜くことができた。

晴子と遠夜という名前は、一見「昼⇔夜」と正反対で、決して交わらない世界の住人同士のような印象です。ただ、もし「夜が遠い」と読むのなら、ふたりは「晴れて夜が遠い時間=昼」、同じ世界の住人であるとも解釈できるかなと思いました。

『リンカ』の航斗くんもそうですが、近年の秋田先生が描く10代の男の子は、地に足のついた逞しさがあり、カッコ良いなと思います。『オーフェン』4部のマヨールも逞しかったですし、「若者が持つ力」を信じて大切に思っているからかな、という気もします。

また、「怒りに呑み込まれず、相手ときちんと対峙して、大事なことを守る」というテーマは、既存の秋田作品でもあったなと。
『エンハウ』ではウルペンが、たとえ一方的でも、心を通わすことが一度もなくても、妻を愛していたと吐露するシーンで。「だが、誰がどう言おうと、俺はアストラを愛していた。お前にもそれを否定させるものか!」という義兄の言葉に、(そんなことに…縋って…)とミズーは思うけれども。「それは嫌だけど、否定はしない」と告げることで、「そうか」と彼の表情を少し緩めることだけはできた。

『ベティ』ではフラニーが、ベワセッチの死体に発砲したところを部族の娘に見せることで。彼を“己の願いのために決まりを破った、部族の裏切り者”にせず、“忌み子に射殺された部族の戦士”として死なせ、名誉を守ることができた。
『オーフェン』の「女神未来」(上)ではジャニスが、戦争のどさくさで都合の悪い人間(愛人と隠し子)を始末しようとした隊長を止めて。彼に対応するという汚れ役を引き受けたことで、隊長の家族に父親の秘密を告げずに済み、彼らを守ることができた。

『ユリ熊嵐』のガイドブックでイクニ監督が語っていた、「人によって大切なものは違うと思うけど、その大切なものが損なわれようとする時、そこに気づいてあげる、それを見つけることができるのは一つの能力じゃないかな。その感性を好きだと思う」という言葉のように。

秋田先生が、そのような「人によって違うけれど、その人にとっては泣きたくなるほど大切なものに気づき、守るために行動すること」を大事に描く姿勢が、私はとても好きです。
まあ、考えてみればオーフェンだって末娘がしみじみ言うくらい、若い頃から「誰かにとっての大切なものを守るために、汚れ役や面倒事を引き受ける」ことをしてきたお人好しであるんですよね(笑)。

あと、ハルコと遠夜が「自分たちを取り巻く環境、人々を見た」後に、「互いに話し合うこと」で戦う覚悟を決めた、というのも『オーフェン』4部と通じるのかもと。
「見たいように見るんじゃなくて、しっかり見ないと。大人ってそういうことだ」とマヨールとベイジットが気付いたように。「大切なことを言葉で言い合っていたつもりでも、互いに聞く耳を持たなければ意味がなかったんだ」とフォルテとティッシが自覚したように。

そんな、迷ったり失敗したり傷ついたりする人たちを、「正しい/間違っている」と断言せずに、希望を寄り添わせる形で描写する秋田先生は、本当に優しいとも思いました。

長くなりましたが、『ハルコナ』をリアルタイムで読めて良かったなと思いました。「あなたのスキは本物?」と問われそうな空気と対峙した時、大切な人とともに「本物だよ」と言い返すことができるだけの、想いは持ち続けたいです。

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2016-07-07-01-24 作品感想 : コメント (0)件
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リセ

Author:リセ
『オーフェン』後日談連載がきっかけで誕生。秋田禎信作品の二次創作や感想など。

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