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モツ鍋フィーバーより誕生。

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「荒野の二人」シリーズ最終話更新

『魔術学校攻防』発売記念として始めたシリーズも、これで完結です。タイミング良く? 『しゃべる無謀編6』と同日でめでたいかなと思いました。

ではでは、続きから最終話になります!
「荒野の二人」最終話
この世界で温もりを分け合おうとしているのは

 
 こちらの懐めがけて、クリーオウが飛び込んでくる。光の矢のような彼女はためらうことなく、剣の切っ先をオーフェンの内側へと押し込んできた。彼女の鋭い眼光が間近で瞬く。剣が胸元を抉ろうとした瞬間、オーフェンは身体を地面に投げ出した。転がる勢いのまま遠ざかっていく。スピードが減速する途中で手を地に突き、跳ね上がるように身体を起こす。
 クリーオウは彼の動きについてきていた。加速し、体勢を低くしているオーフェンの膝下を狙って剣を突き出す。オーフェンはブーツの底で剣先を蹴り飛ばした。ブーツに弾かれ、加速の勢いもあり押し戻される形で彼女の姿勢が崩れる。
 後方に弾き飛ばされても、クリーオウは剣を手放さなかった。尻もちをつくが、即座に跳ね起きる。膝を軽く曲げ、地面を蹴る。開いた間合いを測ることをせず、短く声を発して突っ込んできた。
 オーフェンは拳を固めた。秒読みする。クリーオウが再びこちらに飛び込んでくるまで、あと八秒。六秒。四秒。
(三、二、一)
 真っ直ぐに拳を放つ。手加減はしていない。狙いが正しければ、これで確実に相手に叩き込むことができる。
 オーフェンの拳は虚空を切った。大きく開いた懐に、一陣の風が吹き抜けた。
 胸元に激しい衝撃が走った。真正面から勢いよくぶつかられた。その場に踏み止まることができず、かかとが地面から離れる。後方へ吹き飛ぶ。束の間の浮遊感が全身を襲う。受け身を取る――
 次に全身を襲った衝撃は、後頭部を守ることができたため、激しいものではなかった。それでも、しばらく思考が繋がらないほどの激痛が走った。視界が揺れる。曖昧な視界は月明かりと、それと同色の金髪と、こちらを見下ろす碧眼が混ざり合い、歪なグラデーションを描いていた。
 気付くとあおむけに倒れたオーフェンの身体の上に、クリーオウが膝を立てて圧し掛かっていた。彼の胸元、心臓の真上に剣を突き付けた姿勢で止まっている。重い。が、力を込めれば容易に突き飛ばせるだけの重さしかない。微かに上下する胸の鼓動を、剣先を通じて彼女は感じているのだろうか。
「荒野の二人」最終話-1
「……オーフェン」
 低い声で問いかけてくる。険しい眼差しが降り注ぐ。
「このまま、わたしになら殺されてもいいと思った?」
「いいや」
 即答する。真っ赤な嘘は吐き出すのに苦労しない。
 身体の上の重心が移動した。クリーオウが彼の瞳をじっと覗き込んでくる。身動きがとれない状態で、心の奥底を推し量る眼差しにさらされる。ふと、彼女とこんなにも長く見つめ合うのは久しぶりだな、とオーフェンは思った。
 数分の思考の末、彼女の中で結論が出たらしい。クリーオウは剣を下ろした。体勢を戻し、彼から離れる。無言のまま、剣を持った手と反対の手を差し伸べてくる。オーフェンは彼女の手を取り、ゆっくりと身体を起こした。
(こいつの身体って――)
 こんなにも小さかっただろうか。
 改めて少女を見下ろす。両腕で抱きしめれば、柔らかな花束のような感触しか返ってこない、華奢な身体だ。不釣り合いの剣をぶら下げ、汚れた格好で佇んでいる。
 オーフェンは目をそらした。代わりに、未だ座り込んで震えている男へ声を投げた。
「……夜明けまでまだ時間がある」
 男がびくりと震えた。怯えた顔を見せる。
「急いで帰れば、キムラック村へ戻れるだろ」
 胸に鈍い痛みが走る。ここで彼らを逃せば、どうなるか分かっているのか? 情が命取りになることを、まだ理解できていないのか?
 理解している。だから選んだ。
 その場にいる彼らに背を向ける。怨嗟で突き動かされる男たちと、ひとつの覚悟のみでついてきた少女を置き去りにして、進んでいく。
「ふざけんな……」
 半ば泣き声に近かったが、男が悲鳴を上げた。
「今さら情けをかけたつもりかっ!? 同志を散々殺しておきながら――貴様はどこまで俺たちを侮辱すれば気が済むのだ!」
 この程度の罵倒なら慣れている。意識に留めておく必要はない。
「覚えていろ。奪ってやる――必ず貴様の全てを奪ってやる! 奪うことしかできない貴様に、のうのうと生きる権利などな――」
 不自然に声が途切れた。オーフェンは初めて振り返った。
 金髪の少女が男の前に立ちふさがっている。彼女の眼差しにさらされた男が、今度こそ絶句していた。
「クリーオウ」
 彼女の顔は見えない。身体も、柄を固く握り締めた右手も、震えていなかった。
 オーフェンは近寄って手を伸ばした。クリーオウの強ばった右手に触れる。
「いいんだ」
 少女が仰ぐ。決然とした瞳の光が揺れている。何かをこらえるように、唇をきつく噛み締めていた。
(そうか)
 オーフェンは悟った。この時が来たのだ。逃げ続けていた事実と向き合う時が。
「行こう」
 声をかける。彼女は柄から手を離そうとする素振りを見せなかった。オーフェンは手を離した。
 ブーツで荒れ地をこする。武器の残骸を蹴り飛ばし、歩き始めた。

◆◇◆◇◆

 前を歩くオーフェンは無言だった。あれ以来、言葉を交わしていない。ただ、迷いのない足取りで、彼がどこを目指しているのかが分かった。
 クリーオウは鬱蒼とした木々を見上げた。鳥の声も聞こえてこない。空の色が、黒から群青になり始めていた。もうじき夜が明ける。
 視界が開いた。冷ややかにきらめく湖面が広がっている。いつもの弔いの丘を目指し、二人は足を進めた。
 小高い丘に登る。澄んだ風が吹いた。こびりついた土や血のにおいを和らげてくれるような気がした。
 オーフェンの足が止まる。クリーオウも立ち止まった。ようやく二人は向き合った。
「さっきはありがとう」
 口を開いたのは彼だった。細く息を吐く。
「お前が邪魔をしてくれなかったら……俺は恐らく、何もかもを終わりにしていたよ」
 クリーオウは黙っていた。相手がまだ、何かを言いたそうにしていたからだ。
「さっきの男。俺のことを、何も失っていない奴だと罵っていた。自分たちの故郷や仲間を奪っておきながら、何一つ失っちゃいないんだと激昂していた。ま、孤児だと名乗っておきながら、スポンサー付きとはいえ開拓民を支配しているんだしな。得体の知れない化け物めいた力もある。それに加え、ボディーガードとしてめっぽう強いお前とレキがついている。確かに理不尽に見えるだろうな」
 自嘲するように唇が歪む。言葉とは裏腹に、オーフェンが浮かべる表情は苦しげなものだった。
「たとえ故郷を失い、家族を失い、居場所を失ってでもだ。あいつらから見れば、大陸を破壊した罪の罰にしては、まだ足りないと言われる可能性の方が高いか」
「なぜ?」
 口を開く。彼は苦笑した。
「失わなかったものが確かにあるからだよ。俺にはお前がいる」
 彼が手を伸ばし、クリーオウの頬に触れた。慈しむように撫でる手のひらは暖かい。
「俺がしたことの結果は、俺にしか背負えない。そしてクリーオウが、全てを覚悟した上で、俺の隣にいようとすることも。それだけで充分すぎるくらい、俺の救いになっているんだ。これ以上、望むことなんてない。むしろ贅沢だ」
 オーフェンの声が詰まる。
「充分なはずなんだ……」
「オーフェン」
 彼の手のひらに自分の手を重ねた。頬の上で、細かく震え始めたオーフェンの手を抑えるために。
「依存してるだけだ。卑怯だと分かってる。俺にこんなことを願う資格すらない。それでも」
 彼の顔が歪む。泣き出しそうな子供に似た表情で。
「……人並みに幸せになりたいって、思ってしまったんだよ」
 反射的に彼女は手を離した。オーフェンの身体に腕を回す。すがりつくような格好で、震える身体を抱きしめた。
(いけない!)
 愕然とする。彼の抱える恐怖が伝わり、クリーオウの背筋に寒気が走った。
 今まで見誤っていた。オーフェンの怯えは、彼女が変化していくことだけではなかった。彼女の覚悟を認められなかった、真の理由を悟った。自分が幸せになることはできないと思ってるのだ。
 両腕で抱きしめる彼の身体には、きちんとした暖かさがある。それなのに、指の隙間から冷たい欠片が零れ堕ちていく錯覚に襲われる。触れれば触れるほど、温もりが失われていく恐怖を感じた。
(違う……)
 ここで何かを言わなければ。伝えないと、オーフェンは二度と手の届かない暗闇に堕ち、消えてしまう。だが、何をするべきなのか。
「このままの状態が続いたら、正気でいられる自信はないな。もし、俺が何もかもを終わらせたがる素振りを見せたら。その時は」
「違う!」
 クリーオウは叫んだ。
「何が違うんだ?」
 頭上から降り注ぐ声は、虚ろな響きがある。彼を見上げることができず、クリーオウは言葉を重ねた。
「オーフェンは間違ってる。資格の有る無しだなんて、幸せになるのに関係ない。オーフェンがどんなことを罪だと感じても、だからといって罰として幸せになっちゃいけないだなんて、誰が決めたの」
「誰が決めたことじゃなくてもだ。一生、誰にも許されることはないのかもしれない。その疑念は、これからも付き纏っていくんだよ」
 背筋に風が当たるのを感じる。不意に、途方も無い孤独感が込み上げてきた。この世界で温もりを分け合おうとしているのは、ただ二人きりだ。
 ちっぽけな身体と言葉。彼を支え切るには、あまりにも脆弱な力である。
 相手を気遣うふりをして、単に依存し合っているだけなのかもしれない。
 それでも。
「守らせて……」
 クリーオウは声を振り絞った。湿った吐息はオーフェンのシャツに吸い込まれていく。
「わたしにオーフェンの人生を守らせて。幸せになるの。オーフェンにどう思われても構わない。誰にも許されなくたっていい。わたしは」
 彼の背に回している両手に力を込めた。
「わたしはオーフェンと一緒に生きていきたい」
 しがみついてきつく瞼を閉じた。そうしなければ、この凍えを暖めることができないと思ったのだ。
 身体に震えが走る。オーフェンに宿る寒気が移ったのだろう。このまま抱きしめ続けていよう。そうすれば、いつかは芯から暖めることができる。
 クリーオウは抱きしめられた。自分の腕の力より遥かに強い、しっかりとした両腕が彼女の身体を引き寄せた。
 オーフェンの身体は熱かった。激しく燃え盛る何かが、奥底から伝わってきた。彼女の胸を焦がすほどに、狂おしい熱が浸透する。
「ありがとう」
 微かに囁く声がした。悲しみを湛えた、どこまでも優しい声が。
「俺の傍にいてくれてありがとう」
 オーフェンの声がくぐもった。
「存在してくれて……ありがとう」
 クリーオウは瞳を開いた。涙があふれる。濡れる視界が空を捉えた。遠くに見える藍色の空に、一筋の光が差し込んでいた。
 互いの身体の震えはいつの間にか収まっていた。

 湖のほとりに佇む。空は明るくなり始めている。冴え冴えとした朝の空気が、頬の熱を冷ましてくれた。
「……改めて、聞いていい?」
 クリーオウは訊ねた。隣に並ぶオーフェンの顔は、疲労が色濃く残っていたが、穏やかなものになっていた。
「何だよ」
「オーフェンにとって、幸せって何なの?」
 オーフェンの肩がずり落ちた。呆れ返った表情で、
「お前な。あそこまで言い切っておきながら、それを聞くのかよ」
「だってさ。具体的に聞いておかないと、どうやってその幸せを守ればいいか、分からないじゃない」
 彼は口ごもった。しばらく黙考してからつぶやく。
「家族がいることだ」
「……オーフェン」
 名を呼ぶ。オーフェンは真剣な眼差しを向けた。
「この抗争もきっと終わらない。俺に取り憑いた力はこのまま返還できないかもしれない。俺と一緒になるなら、クリーオウも同じ目に遭う。俺たちは一生、誰にも許されることはない」
 静寂が続く。ささやかな風に吹かれ、湖面の波が揺れる音だけが響いた。世界から隔絶されたような静けさだった。
「だが、それでもいいと思える。幸せになろう。約束する。誓うよ。俺もお前の人生を守る」
 肩に彼の両手が置かれた。
「結婚しよう」
「荒野の二人」最終話-2
 クリーオウはオーフェンを見上げた。
「ええ」
 ためらう理由はなかった。誓いは二人だけのものだ。
「何か一つでもいい。何かケリをつけたら、きちんと式を挙げよう」
「ええ」
「家を作る。小さくてもいい。この景色が見える場所で」
「ええ」
「そして、もうお前が戦場に出てこなくてもいいようにする。何年かかっても、どんなに難しくてもだ。静かに暮らしていけるよう、俺が努力する」
 今度は肯定しなかった。そっと首を振る。
「ふたりで、よ」
 オーフェンは瞬いた。微笑む。
「ふたりでだ」
 朝日が白く輝いている。そろそろ一日を始めなくてはならない。
 クリーオウはオーフェンと歩き始めた。森を出れば、外には未開拓の地が広がっている。夥しい死が積み重なり、その犠牲によって切り開かれていく世界が。
 寄り添いながら、二人は荒野へと踏み出した。

〈完〉


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2013-05-25-01-57 シリーズ : コメント (0)件
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リセ

Author:リセ
『オーフェン』後日談連載がきっかけで誕生。秋田禎信作品の二次創作や感想など。

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