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モツ鍋フィーバーより誕生。

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「荒野の二人」シリーズ第四話更新

もろもろ~の予定を変更して、こちらから更新しちゃいます。今度は割と早めにアップできました、「荒野の二人」シリーズ第四弾です。

いや、2月中には『鋏の託宣』&「しゃべる無謀編3」の感想を書く予定だったんですが…。ばたばたしているので、それらはもうちょっと時間がかかりそうです。しばしお待ちをー。

というわけで、本文を続きからどうぞ!

「荒野の二人」第四話
ずっと背負ってきたと信じていた


 散策はいつもの巡回ルートをなぞるだけで良かった。村を周り、武器庫、食糧の備蓄庫、家畜小屋、貯水池、畑を念入りに確認する。開拓の生命線となる施設への襲撃は頻繁に起こる。どこも異変はない。時限式の罠が仕掛けられている様子もなかった。
 オーフェンはゆっくりと歩いた。月と星明りのため、明るい夜だ。今日は平和な夜を過ごせそうだった。
(襲う方も襲われる方も人間だ)
 体力の限界がある上に、何より開拓を進めなければ生活を営むことができない。大勢の人間の生命がかかっているのは、どちらの開拓団にしても同じだ。生きるための開拓の合間に殺し合いをしているのか、殺し合いの隙間を縫って開拓しているのか、最近は曖昧になってきているのが実情だが。
 どちらかがこの大陸を掌握する。あるいは共倒れする。抗争の決着はまだ先が見えない。そもそも、彼の目的である魔王の力の返還すら、まだ達成していないのだ。終わりに辿り着くのはいつになるのか。
 警備隊のオフィスに辿り着く。これで村を一周したことになる。中は灯りがついている。今日の夜勤担当がいるのだろう。扉を開けて声をかけようか、しばし迷う。結局その気にはならなかった。そのままきびすを返す。
 村に帰る道に背を向けて、反対の道を選んだ。このまま進めば森の奥深くへ行くことになる。未開拓地まで行くつもりはないが、村から離れたかった。なるべく村にいる時間を減らしたかった。
(三日……いや、もう夜になったから四日目か)
 クリーオウと距離を置いて四日が経つ。いつも寄り添うようにすぐ傍にいた彼女は、数メートル離れた後方からついてくるようになった。必要なやりとりを交わす以外、口をきかない。
 二人の寝床も静かだった。時折、夜中に目が覚めることがある。闇の中で眠る彼女の顔を見つめる。こちらを厳しく睨みつけていた碧眼を思い出し、伸ばした手を引っ込める。そんなことを繰り返すたびに胸が軋む。苦笑する。これを招いたのは、誰のせいだ。
 周囲も二人の変化にそれとなく気付いているようだが、関わりを持つのを嫌がっているのか積極的に訊ねようとしない。今日になり、先ほどの打ち合わせの際にようやくサルアが忠告してきた。
『何があったかは知らんが、さっさと仲直りしておけよ。見ていてすっきりしない』
 それができるなら、とっくのとうにしている。
 あの時言えなかった返事を虚空に放つ。クリーオウだけには絶対に拒絶されはしない。拒否することなく全てを受け入れてくれる。――そう分かっているからこそ、向き合うのを恐れている。向き合えば、己の願望の根底にあるものを認めざるを得ない。
 本心を伝えれば伝えるほど、相手を約束に雁字搦めにさせる。彼女はオーフェンを裏切ったりしないという証拠を引き出すために。彼自身の安堵の確認のために。
(そんな関係が、対等と言えるのか?)
 依存だ。今の自分たちの関係で、想いを育んでいくことなどできない。
 対等でなければ、何一つ誓えることはない……
 オーフェンは躊躇なく森へ入った。落ち着き払った足取りで歩く。木々は黒色で塗り潰され、行く手を阻むように茂っている。光の射し込まない箇所が増えてきた。夜目で見通せる範囲が狭まる。足元の草を踏み分ける。全ての音を吸い込んでいく深奥へ、進んでいく。
 変わり映えのない光景が延々と続くが、適当な感覚で木々の間をくぐり抜ける。幾度か左右を曲がったところで、彼は足を止めた。
 森を切り開いた、中途半端な広さの空間に出た。廃材や修復不可能になった武器の残骸が積み重なった、塵の集積所である。乱雑に物が散らばっている。二度と人の目に触れられることはない、そう思えるもの全てが押し込まれていた。大勢の記憶から切り捨てられた場所こそ、ふさわしいだろう。オーフェンは口を開いた。
「いいかげん、出てきたらどうだ?」
「荒野の二人」第四話-1
 一瞬息を呑んだような間があり、張りつめた沈黙が下りた。じっと耳を澄ましていると、押し殺した息遣いと足音が四方から聞こえてくる。
 森の間から、顔を黒布で巻いた黒装束が姿を現した。複数だ。背後からも気配を感じる。視覚と聴覚で判断する。五……六……七人か。どの黒装束も剣や棍棒、ナイフのようなものを手にしている。月明かりに照らされた輪郭から、恐らく全員が男だと分かる。彼らは揃って、あらわになっている眉間や目の周りを泥で黒く塗っている。白く濁った両目だけが闇夜にぎらついていた。
「夜襲にしてはずいぶん少人数だな。ま、おかげでここに誘い込むことができたんだが」
 男たちからの返答はない。抑え込んだ怒気が肌に伝わってくる。穴から空気が漏れるような彼らの息遣いが、段々大きくなってきた。
「お――おぉ、魔王……」
「魔王め……全ての元凶め」
「今日こそ息の根を止めてやる……」
「殺せ……殺せ」
 呪詛が耳朶を蝕む。息遣いは激しいものへと変わっていた。即座に飛びかかる様子ではないものの、次第に包囲網を狭めてくる。
 いつ暴発してもおかしくない空気に満たされてはいたが。
(さて、どうするか)
 どれだけ殺意にさらされようと、胸中は静かだった。義務的に手順を確認する。
とるべき手段は決まっている。この一年半、何度も同じ目に遭ってきた。彼らが襲いかかるより早く構成を編み、魔術を放つ。今まで大人数を相手にした時、使ってきた手だ。その場を動かずとも、容易に空間を支配しねじ伏せる。たった一声で全てを覆すことができる。絶大で圧倒的な力。
 オーフェンは地を蹴った。前方へ全速力で走る。まさか標的が真っ直ぐ突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。真正面にいた二人の男が動揺した気配を見せた。
 彼らが慌てて武器を構え直した頃には、既に決着がついていた。二人の間に身を滑り込ませると、左右に肘を突き出した。両者のこめかみを抉るように直撃し、二人は声もなく昏倒する。
 オーフェンの動きは止まらなかった。飛び込んだ勢いで振り返り、一番近くにいた三人目の男の腹部に拳を叩き込む。そのまま男の体を盾にし、もう一人に体当たりする。二人分の衝撃を受けた四人目は成す術もなくあおむけに吹き飛ばされる。悲鳴交じりの叫びを上げた男の口が、オーフェンに喉を踏み抜かれ、奇妙な形に歪んだ。口の端から血が混じった泡が噴き出た。
「あ――アァァァーッ!」
 雄叫びをあげて剣を振り翳した五人目が躍りかかった。避けるには間に合わないと判断し、半身を反らそうとした。途端、背筋を冷たい悪寒が走る。可動域で視線を走らすと、彼の死角ぎりぎりを狙い、六人目が金属製の棒を突き出してくるのが見えた。派手な動きをした五人目が囮だった。本命はこちらだ。
 彼の目を潰そうと、棘が巻かれた棒の先端が迫ってくる。捻った姿勢のオーフェンを、剣と棒が挟み打ちにした。
 瞬間、オーフェンの頭部が彼らの視界から消え失せた。交差する剣と棒が激しい音を立てた。
「っ!?」
 尻もちをつく形でオーフェンは腰を落とし、反動を利用してかかとを振り上げる。狙いは定めてあった。重量のあるブーツを勢いよく叩き込まれた彼らの指から、武器がすっぽ抜ける。数瞬の間があった。自分たちの身に起こった出来事と激痛を理解し、二人はようやく絶叫した。
 身を起こしたオーフェンの次の動作は、簡単だった。折れ曲がった指を抱え込んだ二人の首元に、順番にかかとを落とす。身をのけぞらせ、二人は地面に崩れ落ちた。
 ここまで数分もかかっていない。足元には戦闘不能となった六人の男が倒れている。
 オーフェンは振り返った。それほど離れていない距離で、最後の一人である七人目が唖然としている。さすがに剣を構えてはいるが、目の前で起きたことに思考が追い付いていないようだった。何となく、体躯からこの襲撃者たちの中では一番年かさなのではないかと思った。
「どうした。かかってこないのか?」
 七人目は呼びかけに応えない。オーフェンを見据え、震えている。
「し――信じられない……何なんだ! 今の動きは。今のスピードは。ありえない。ありえるものか……!」
「カーロッタの奴から、何も聞かされていなかったのか? ということは、取るに足らない末端が暴走して単独行動をとったみたいだな」
 魔術士を相手に戦闘する時は、大勢で襲いかかって魔術を撃つ隙を与えないのが鉄則だ。常時のキムラック村からの襲撃では、必ず一対大勢に持ち込もうと仕掛けてきていた。
 しかし彼らの動きは無駄がありすぎた。統制のとれてない襲撃を受け、始めからそうだろうと踏んでいた。この様子では、彼らがキムラック村へ戻ることができても、帰る場所が用意されていない可能性が高い。
「ありえない……魔術士であっても、あんな人間離れした行動をとれるわけがないだろう!」
「あいにく、俺はただの魔術士なんだがね」
 自分ではそのつもりでいる。皮肉を歯の間ですり潰したのも露知らず、男は取り乱して叫んだ。
「い、いや。そうか……だからだ。貴様が魔王だからか。そうだ、魔王だからできるのか! 化け物じみた非道な戦闘ができるのだな! この……この、魔王め!」
 男が独り合点して激昂していけばしていくほど、オーフェンの心中は冷めたものに転じていった。冷え冷えとした心地が肉の内側に広がっていく。
「なあ」
 口をついて出た言葉に、深い意味はなかった。
「何でお前、こんなことしてるんだ?」
 男は一瞬叫ぶのを忘れて、ぽかんとした。が、馬鹿にされたと思ったのだろう。即座に顔を紅潮させ、泡を飛ばしてくる。
「こ、この期に及んで、俺たちを愚弄するのか! 全てを壊した貴様が! 貴様のせいだ! 貴様さえいなければ、キムラックは崩壊せずにすんだ!こんなにも大勢が死なずにすんだ! こんなことにはならなかったんだ! 俺たちは全てを失くしたんだ――何一つ失ってもいない貴様のせいで!」 
 ふっと――
 男の罵声で肩から何かが落ちた。ずっと背負ってきたと信じていたものが、不意になくなったのを感じた。身体が軽くなった。
 心が虚ろになる。凍えていく意識の中で、男のわめき散らす声がうるさかった。
「恥を知れ! 罪を認め、己の死をもって贖え! それが貴様に殺された同志への弔いになる!」
「そうか」
 オーフェンはつぶやいた。男の言葉を肯定したわけではない。
 だから、一歩踏み込んで男に近付いた。罵る男の顔が引きつった。
 相手の腹部に拳がめり込む。くぐもった叫びが男の口から吐き出された。
 あおむけに吹き飛んだ男が地面に倒れ込む。あえぎながら起き上がろうとした相手の胸を、足で蹴るように踏みつけた。中途半端な悲鳴が上がる。
「これじゃ釣り合わないだろうな。まだ足りないんだろう。俺が故郷を失くしても、家族を失くしても、居場所を失ってもだ。次は何を失えばいいんだ? どうすれば、魔王であることから逃れられるんだ?」
「ひっ……!」 
 淡々と告げる。肋骨が軋むほどオーフェンに体重をかけられ、男は恐怖に顔を歪ませた。
 怯える相手を見ても何も感じない。オーフェンはつぶやいた。
「敵対者に勝利すればいいのか。死者の数を減らせばいいのか。魔王の力を使用しなければいいのか。返還したい力の元の持ち主は、居場所の手掛かり一つすら見つかりもしない。このまま、永遠に失くし続ければ贖罪にでもなるのか?」
 この世界でたった一人の、失うことを唯一恐れる相手すら失くせば。
 その時初めて、彼の行為は世界中の怨嗟と釣り合うのかもしれない。これ以上、失うものがないのだから。執着も感情も不必要になる。ありふれた一個人に戻ることを願う理由が、根底から存在しなくなる。
 オーフェンは魔術の構成を編んだ。自分以外、打ち捨てられた空き地、森の外へと、範囲が広がっていく。膨大な術の下地。絶対的な破壊の力。
 その意識の片隅で、魔術とは異なる暗い力が蠢いた。異物のはずが身体に棲みついてしまったもの。暴発する危うさを内包し、放出する快感を誘う。
「や……やめ、やめろ! やめてくれ……」
 構成が見えなくても、不穏な空気を敏感に感じ取ったらしい。男が震えながら懇願してくる。身動きの取れない身体から、必死の眼差しを送ってくる。
 オーフェンにとって、足の下でもがく生命に何の意味も見出せない。
 どうでもいい。もうじき、何もかもを終わらせることができる。
 オーフェンは右腕を振り上げた。世界に喪失の楔を打ち込むために。
 右肩に衝撃が走る。
 勢いよくぶつかってきたものが、彼を突き飛ばした。
「荒野の二人」第四話-2
 オーフェンの揺れる視界に、月光より激しく輝く金髪が飛び込んでくる。
 闇夜を切り裂いたクリーオウは、彼の胸目がけて剣先を突き上げ、叫んだ。

〈続く〉

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2013-02-27-01-25 シリーズ : コメント (0)件
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Author:リセ
『オーフェン』後日談連載がきっかけで誕生。秋田禎信作品の二次創作や感想など。

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