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モツ鍋フィーバーより誕生。

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「荒野の二人」シリーズ第二話更新

台風が近づいていますね。東京はまだ、嵐の前の静けさのような感じです。

さて、間が空きましたが短期連載・長編シリーズの第二話です。今回の話を読めば、このシリーズがどういう方向に行くか分かるのではないかと。

ではでは、続きからどうぞー。

「荒野の二人」第二話
亀裂が走り、心の奥底から黒い水が


 魔術はアドバンテージのひとつであり、万能の力として信じる者も多い。炎や風を自在に起こせる。空を飛行できる。疑似的に瞬間移動ができる。思念と声ひとつで、描いたイメージ通りに現実を作り変える。できないことは死者を蘇らせることぐらいだろう? と以前訊ねられたことがある。その時、自分は肯定したはずだ。今はどうか。
(魔術士にはできない、となら答えられるか)
 自分ならできると口にしたら、周りの人間はどう反応するだろう。不信を翻して、彼に縋るだろうか。ますます魔王として畏怖するだろうか。
 闇夜に踊る魔術の炎は、オーフェンの自問を反映するようにゆらめいている。万能の奇跡を起こすことはない。本来の役割、物質を燃やすことのみに特化したただの炎。白い火の中で、塊が崩れていくのを見つめていた。
「荒野の二人」第二話-1 
 炎が鎮まると僅かな量の灰が残った。まだ熱を帯びる灰を、両手ですくい上げる。彼の手のひらより小さな壺に、できるだけ零れ落とさないように灰を入れた。細かな粒は指の隙間をさらさらと流れていく。途中、爪と肉の間に灰が詰まった。爪をこすり合わせて丹念に落とす。この作業を毎日繰り返していくうちに深爪になった。
 最後の壺を作り終えた。数える。二十五。今日はまだ少ない方だ。あとは、この壺全てを丘の上まで運べばいい。これで弔いの儀式は終わる。
 森から出てくる足音を耳にして、オーフェンは顔を向けた。月光に輝く金髪の少女と、大型の黒犬が姿を現した。彼が遺体を焼いている間、クリーオウらは木陰で待ち、姿を見せない。焼き終わると出てきて壺を共に運ぶ。いつからそうなったのかはもう覚えていない。黙々と遺体を焼く彼に、どんな言葉をかけても無意味だと彼女が自然に悟ったのかもしれない。
「今日は?」
「二十五」
 数だけを確認すると壺の移動に取りかかった。黒犬は丘のふもとでじっとしている。音もなく夜に溶け込むレキなら、見張り番には適役だ。
 両腕に壺を抱えて丘を往復する。一日の終わりに二人きりで行う作業だ。立ち会う者がいないのは、大勢が疫病を恐れるからでもあり、家族が全滅しているケースからでもある。墓を作り始めた頃は前者が多かったが、最近は後者が多くなっている。他の理由もあるが。
 仮の墓標と決めた、自然石の裏に壺を並べる。石も壺も、月と月光に反射する湖面のきらめきで白く光を帯びている。丘はまだ広い。この弔いの丘が壺で覆いつくされるのは、まだ当分先のことだろう。
「オーフェン。終わったよ」
「分かった」
 まぶたを閉じて暗闇の中で祈る。顔を覚えきれなくなっても、死者への悼みは回数が減ることはない。二人ともキムラック教徒ではないから、彼らへ祈りの言葉を捧げることはできない。せめて失った故郷を向いて眠れるように、ここへ墓を作った。
「……あの人だけだったの?」
 静寂が破られる。瞳を開けて隣を見やる。クリーオウは神妙そうに墓標を見下ろしていた。
「例のスパイだった人。最後に襲ってきたあの人以外にも、他にいたんじゃない?」
 胸の内に不透明な水がじわじわと浸食してくる。重い不安が声音に染み出してこないよう、オーフェンは慎重に言葉を選んだ。
「ああ。他に二人いた。一人は昨日の戦闘で死んだが、もう一人を捕えて白状させた。三週間前から、キムラック村と通じ合っていたんだと。何でも三人とも、向こうの村に紛争の際に離ればなれになった家族がいると分かって、スパイとなったらしい」
「そう。それは……辛かったでしょうね」
「だろうな」 
 彼女は捕虜の行く末については訊いてこなかった。長い睫毛を伏せる。青い瞳に星が瞬いたように見えた。
「ねえオーフェン。わたしに言っていないことがあるでしょう」
 彼女の言葉は真っ直ぐな錐となり、オーフェンの胸に突き刺さる。亀裂が走り、心の奥底から黒い水が溢れてくる。的中した不安は胸いっぱいだけでなく、喉元まで浸そうとしていた。
「……何のことだ?」
「いつも傍にいさせるわたしを、昨日に限っては看護班に行かせた。そのせいで、わたしが戦闘に駆けつけるのが遅くなった。オーフェンたちは、本当は知っていたんじゃない? 昨日の夜、襲撃が行われるのを」
 だって、とクリーオウは墓――今日並べた壺をひとつひとつ示す。
「焼かれる前に一度、顔を確かめたの。昨日の戦死者で、こちらの開拓団の人は誰もいなかった。昨日、あの場にいて戦闘していた人の全員は確認できなかったけど、村の人たちはほとんどいなくて、警備隊員が多かった気がした。スパイが誰かをあぶり出すため、わざと警備隊の会合時間を公表したんじゃない? そして、おびき出した向こうの人たちを迎え撃った」
 火葬に立ち会う人間がいない理由のみっつめは、ここで死ぬのがサルア村の人間に限らないからだ。淡々と指摘する彼女に、そんなことを思い出す。
「俺がそんな危険な橋を渡ると思うか? だいたい、この村じゃ俺の地位は高くない」
 ほとんど信頼されていないからな、とまでは言わなかった。あまりの言い訳に苦笑する。
「別にオーフェンの提案かどうかはどうでもいい。サルアが言い出したことかもしれないし、メッチェンが言い出したことかもしれない。わたしが言いたいのは、それじゃないの」
 クリーオウは彼に向き合った。
「わたしを戦闘に巻き込まないよう、遠ざけたのよね」
 冷めた響きだった。彼女の口調にあるのは感謝ではない。静かな怒りだった。
「わたしはオーフェンを守る。そのために、ティッシの元で一年かけて訓練した。だから」
「お前に傍にいてほしいとずっと思っていた」
 高ぶりかけた相手の言葉を遮る。
「王都で別れた後も、一人で荒野をさまよった頃も、アーバンラマで待機していた頃も、追いかけてくるのを待っていたんだ。俺が待っていたのはお前一人だけだったよ。クリーオウ」
 深く考えずとも自然に浮かんでくるオーフェンの想いに嘘はない。それでも声が軋むのを感じだ。
「今もその気持ちは変わらないよ。だがな。変化を止められないと分かっていても、認めたくなかったんだ。お前が――」
「わたしが人を殺すのを?」
 続きを引き取ったクリーオウに言葉が途切れる。彼女がマントの下、剣帯に吊るした剣を触っているのが分かる。上陸後、果敢に前線に躍り出て剣をふるい、彼を隣でサポートし続けるクリーオウは、こう呼ばれ始めた。魔王のボディーガード。
「昨日のあの人に限って言えば、流れる血が多すぎた。魔術でももう助からないと思ったから、わたしはああしたの」
 ずっと前から覚悟はできている、と彼女は付け加えた。
 改めて眼前の少女を見やる。月に照らされた小柄な相棒。短く切った金髪。ぼろぼろの衣服。血で汚れた剣。傷だらけの身体。肌着の下、滑らかな少女の素肌に大小の傷が刻まれているのを見るたびに、後ろ暗さを覚えていた。愛撫で肌を塗り変えようとしても、傷のひとつひとつが彼を糾弾する。
 コノ娘ヲココマデ変エテシマッタノハ、オ前ノセイダ。
「……そんなことをする必要はどこにもなかったはずだ。お前に、ただ笑っていてほしかったんだ」
「ずるい」
  容赦なくクリーオウは言葉を重ねる。短い非難は具体的な痛みとして刺さる。
「変化を拒絶しないで受け入れるって言ったのはオーフェンよ。わたしだけは認めないつもりなの?」
「本当なら!」
 急に張り上げたオーフェンの声に、彼女は息を呑んだ。驚いた顔だけは昔のように幼く見える。それが哀しかった。
「本当なら。お前一人を連れて、どこでもいい。どこか遠くへ行ってしまいたいと思ったこともあったよ。全部をかなぐり捨てて、カーロッタだろうが神だろうが、誰も邪魔しないところまで連れ去りたかった。今の俺には簡単にできる。魔王なんだからな。不可能はほとんどない。奇跡と言ってもいい魔王の力だよ!」
 次々と溢れる激情が止まらない。蓋をして浸食されないようにしてきた願望は、言葉にしてしまえば陳腐なものだった。
「確かに俺は変化と戦うのを選んだ。引き起こした結果を受け入れることもだ! どれだけ大勢に責められようが、人が死のうが、それを選んだんだ。そう思えたのは!」
 激情が頂点まで達した。醜い感情の吐露が虚ろになる。一転して、声がか細くなっていく。
「そう思えたのは……お前が、全てを肯定してくれたからなんだ。クリーオウ。間違っていないと、唯一断言してくれた。ずっと昔から、裏切らないと信じることができた。昔から、お前だけは俺の味方でいてくれたんだ」
「…………」
 顔をそむけもせず、クリーオウは黙って彼の激白を聞いていてくれる。昔なら、問答無用に元気づけて背中を無理やり押してくれたかもしれない。だが、彼女は身じろぎひとつしなかった。
「俺なんかのために……俺のせいで」
 弱々しく吐いた言葉の空虚さに、乾いた笑いすら起きない。相手への気遣いではない。自分の理想を押し付けただけの哀願だ。
 しばらく二人とも無言だった。根比べのように沈黙を保っている。夜風が吹いた。湿気を含んだ互いの髪を揺らした。
「オーフェン」
「荒野の二人」第二話-2
 長い時間をかけてクリーオウは口を開いた。闇夜にも輝く青い瞳が睨んでくる。
「これはまだ言ってなかったかもしれないけれど。わたし、そのことだけはオーフェンが間違っていると思う。オーフェンが変わったなら、わたしだって変わるわ。いくらでも変化できる。だって……オーフェンの傍にいたいから」
 押し殺した怒気をはらんでいる言葉だった。が。
 オーフェンの胸がきつく締めつけられた。望んでいた言葉だった。欲しかった切実な言葉を彼女はくれた。
 その言葉を引き出すためなら何でもしたいと思った。たとえ何かを犠牲にしても。醜さをぶつけても。何故なら、彼女は全てを受け止めてくれるだろうと信じられるからだ。
 オーフェンは首肯した。そのまま丘を下り始める。卑しさが背にまとわりついて、足取りが重くなった。ふもとにいた黒犬が顔を上げた。無関心な黒い眼を向けてくる。
 彼は一度も振り返らなかった。
 クリーオウは必ず追いかけてくるだろう。魔王のボディーガードは、彼を守るためにどこまでもついてきてくれる。

〈続く〉

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2012-09-30-02-24 シリーズ : コメント (0)件
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リセ

Author:リセ
『オーフェン』後日談連載がきっかけで誕生。秋田禎信作品の二次創作や感想など。

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